プロ卓球選手 宇田幸矢とボブソンホールディングス社長 尾崎博志 対談 ~選び取る力~

2023年より、宇田選手と契約

 

近況報告――ルブラン戦と森薗コーチの“鬼サーブ”


尾崎 今日は岡山に来てくれてありがとう。宇田さんとは契約を結んで三期目になりますが最近の調子はどう? 

ここ1〜2か月、かなりタフな大会が続いていたよね。

宇田 そうですね。正直に言うと、あまり良くなかったです。直近はチャンピオンズをはじめレベルの高い大会が続きましたが、自信が持ち切れず、プレーも乱れてしまいました。


尾崎 フランスのルブラン兄弟とも当たったよね。あのテンポは独特だった。


宇田 弟のペンホルダーの方と戦いました。パリのオリンピックで銅メダルを取った選手です。

負けましたけど、本当に試合のリズムが速かった。サーブを出して、終わった瞬間にはもう次の体勢に入っている。 

相手が何をしているか整理できないまま押し切られてしまいました。

試合後に他の選手からも「ペースを握られてしまうよね」と言われましたが、実際に対戦してみるとその速さに驚きました。


尾崎 迷いが出た瞬間に持っていかれる、トップの世界はそういう小さな差を突いてくるんだね。

でも課題がはっきりしたから次につながる。


宇田 そうですね。試合運びや流れの作り方を学ぶことができたので、今後に活かしたいです。

実は今、森薗選手にもコーチをしてもらっています。

今日も合宿で一緒でした。

練習はとにかく厳しくて、吐きそうになるくらい追い込まれます。特に“練習サーブ”が鬼で、一本一本が試合並みに鋭い。


尾崎 現役に近い選手がコーチとして入るのは大きいよね。


宇田 はい。対戦相手として見ていた時の印象と、本人が語る思考のギャップが面白いです。

反応を見てすぐにテンポや配球を変えてくる。練習でも迷いが出た瞬間に持っていかれる。そこで「反応して戦う」感覚を磨いています。


尾崎 なるほど。試合と同じ強度で練習できるのは財産ですね。平時に本番と同じ負荷をかけられるかで差がつく。森薗さんとの関わりは今後も大きな財産になると思うよ。

 

 

 

怪我とコンディション――
「体→卓球」の順番と、“抜く”判断

 

 

尾崎 この2カ月くらいは苦戦が続いていたんですね、でもここ2〜3年で見るとどうでした?大学のときは腰が大変だったと思うけど、そのあたりもだいぶ変わってきているよね。


宇田 そうですね、大学生活はずっと腰の怪我に正直悩まされて、練習が“積み重ね”にならなかったです。

試合しては痛くなって、感覚を取り戻す練習に逆戻り。次の一歩に行けない辛さはありました。


けど、卒業してからは体との向き合い方を変えました。

体幹づくりやリハビリはもちろん大事ですが、体のケアをより一層重視して、抜くときはしっかり抜く。

卓球の調子より先に体のコンディションを整える。

その順番にしてから安定しましたし、ここ1年は腰の調子もとても良いですね。


尾崎 経営も似てる部分があるかもね、100%で走りっぱなしは続かない。あえて抜くことで組織が自然と回るようにするのも戦術のうち。アクセルだけじゃなくブレーキも意思決定だよね。


宇田 そうですね、例えば筋トレで筋肉が固まったまま、調子の良いイメージで強く打つと体に負担が来ます。

体の状態がぶれると腰に来て痛くなる。

自分の卓球のプレイスタイルも、結構ハードに動いたり、力強いボールを打つんで、他の選手よりも体の負担は絶対あると思う。

だからこそ抜くべき時は抜くことが大切でそれに気づくことができた。


大会が迫って焦る時期もありましたが、いったん抑えることを覚えたので、結果的に、その方が積重ねになります。


尾崎 「きつい時はやらない」って判断が、未来の自分を守る。私も最近腰を痛めたのに、つい我慢して卓球の練習をしてしまうから、宇田さんを見習わないと。笑



卓球の“今”――若年化と経験値、読み合いの深さ

 

 


尾崎 ここ数年、本当に若い世代の台頭がすごい。小学生や中学生が一線級の選手を倒すなんて、昔では考えられなかった。

私なんかも普通に小学生に負けてしまう(笑)、実際それくらい世代交代が進んでいるよね。


宇田 はい。僕が小学生だった頃よりも、若い世代が勝つ確率が格段に上がってます。

昔はパワーの差が大きくて、身体の大きい選手や体力のある選手が圧倒的に有利でした。

でも今はボールが変わり、ラリーのスピードやピッチが速くなったことで、体の小さな選手でも勝てる環境になっているんです。

特にバック技術の進化は大きい。今や小学生でも、バックの速い打ち合いで大人を崩すことができる。


尾崎 なるほど。パワーだけじゃない。戦術や経験の深さで勝負ができるのが卓球の面白さだよね。


宇田 そうです。若手がどんどん伸びる一方で、ベテランが経験や試合運びで勝つ場面もあります。

卓球は台が近いから、相手の仕草や表情がすぐに見える。そこから情報を読み取って、試合を組み立てることができるんです。

だから年齢を重ねても勝てる。心理戦や駆け引きの部分で経験が生きるんです。


尾崎 うちの大会でも、孫世代に勝つおじいちゃん普通にいるからね(笑)。

相手の癖やタイミングを読む力は年齢を重ねるほど強くなる。そこが卓球の深さだね。


宇田 はい。サーブの回転や球の軌道を読む力もそうですし、わざと「見せる」仕草で相手の反応を試すこともあります。

そういう駆け引きは年齢に関係なく、むしろベテランの方が得意。

 

 

服と自分、そしてボブソンの
新提案――アスリート体型ジーンズ

 

 

尾崎 なるほど。相手にどう「見せる」かは卓球とファッションも似ていますね。宇田君は卓球選手では珍しくファッション好き。

インスタを見てても思うけど、服選びは競技とは別の軸で大切にしているよね。


宇田 はい。高校生の頃から服は好きでした。

最初は本当に何を合わせていいか分からなかったんですけど、少しずつ自分の好きな系統を探していくのが楽しくなって。

今ではオフの日は服を選ぶことがリフレッシュの一部です。

今日は何を着て行こうか考えるだけで気分が上がる。デニムも好きです。

歴史が長いと聞いているので、詳しくはないけれど、そういう背景を知るとますます面白いですね。


尾崎 服は“自己満足”でありながら“見られる意識”でもある。その両方を持ってるのはアスリートとして大事なことだね。


実はボブソンでも「アスリート体型でも履きやすいジーンズ」を開発しているんです。

太ももにゆとりを持たせつつ、だらしなく見えない。

動きやすさとシルエットのバランスを両立させたい。宇田君もアスリートだからこそ感じる不便さがあると思うけど、普段どんな悩みがありますか?


宇田 そうですね。僕も太ももが太いので、やっぱりオーバーサイズを選ぶことが多いです。

細めのシルエットが主流だった頃は、パンツがきつくて本当に大変でした。座るのもしんどいし、しゃがんだら膝が曲がらない。

サイズを上げれば丈やウエストが合わなくなるし、ベルトで締めれば生地が寄ってしまってなんかかっこ悪い。

最近はオーバーサイズが流行して少し楽になりましたが、「ちょうどいい」サイズはまだ少ないですね。


尾崎 ウエストに合わせると太ももがきつい、太ももに合わせるとウエストが余る。その“どこで妥協するか問題”
はみんなの悩みだね。


宇田 はい。だから普段はワイド寄りのパンツを選ぶことが多いです。太ももに配慮したシルエットなら動きやすいですから。

 

 

尾崎 実際に宇田君のようなアスリートの方でも心地よく履ける商品を考えたい。誰もが気兼ねなくおしゃれができるようにね。できたら是非履いてみてね。

 

 

アパレルの裏型

――伝統と選び取る力


尾崎 アパレルの裏側を少し話すとね、この業界は分業がどんどん進んで、名前さえ付ければどんな会社でも商品を作って、ブランドを立ち上げられる時代になってしまった。

それはジーンズでも同じでね。けど、そうすると結局どのメーカーも似たようなものになる。


 『誰がアパレルを殺すのか』という本があるけど、この本の通り、自分たちで物を作らず全部外注任せにしてしまった結果、アパレルメーカー自身が特色を失ったんですよ。

要するに、“ものを作れる人”がメーカーの中で育たなくなった。

だから僕たちはもう一度「自分たちでつくること」を原点にジーンズを1から10まで全て、自社で作れるようにしました。

もちろん設備投資はかかるし、人を育てるのにも時間がかかる。

でもそれをやらなきゃ、他社との差別化も品質の維持もできない。

前の世代から多くの人たちが積み上げてきた技術やブランドを、僕らの世代で「更に進化させていくこと」が大事だと思っています。


宇田 なるほど……。それ、卓球にもすごく近いですね。

日本の卓球も、先代の人たちが本当に努力して技術を積み重ねてくれたし、それを受け継いでいく風土がある。

だから、今の僕らがある。歴代の先輩たちが築いた土台があるからこそ、今の最前線につながっているんだと思います。


 僕自身は「自分にしかできないプレーをしたい」という気持ちを常に持っています。

人からもらったアドバイスを全部受け入れるんじゃなくて、自分に合うかどうかを選び取る力が必要。

いいと思ったものは取り入れるし、合わないと思ったものは聞き流す。

そうやってまとめて、自分のプレースタイルとして再現していく。それが面白いんです。

自分ならではのプレースタイルを追及していくことが、ひいては卓球界の発展に繋がっていくとも思っています。


尾崎 世の中には有名な経営者の言葉が山ほどある。でも、その人が実際にうちの会社に来て、どう判断するかなんて、誰にも分からない。

結局は自分が判断するしかない。だから本を読んでも「これはうちには合うな」とか「これは今はいらない」とか、取捨選択が大事になる。


宇田 スポーツもまさにそうです。結局最後は自分に合うものを残して、自分のスタイルにしていくしかないんです。


尾崎 そう聞くと、伝統を受け継ぎながらも、最終的には「自分に合うものを選び取る力」が問われる、ということですね。
 
尾崎 ところで、明日の大会。うち(ボブソン〈ソフトアスリート〉)にも参加してくれるよね。


宇田 はい!楽しみにしてます。


尾崎 うちの大会は、シニアの方も多いし、年齢や体型を超えて楽しめるのが持ち味。さっきの話――卓球は経験で勝てる、長く続けられる――がそのまま出る場だと思ってる。


宇田 そうですね。相手の表情が見える距離で、読み合いを楽しめるのも卓球の魅力の一つ。

体の状態を大事にしながら一歩ずつ積み重ねて、その感覚を明日も出したいです。大会を通じて、卓球の楽しさ”を皆さんに共有できたらうれしいです。


尾崎 宇田さんは身体さえ大丈夫なら、絶対いけます!身体だけじゃなく、気持ちも一緒に整えて、明日もいい一日にしましょう。